曖昧なビートの上で
── 音無 Fade けだるいテンポでJAZZ HIPHOPが流れていた。 重たく沈んだビートが、 誰もいないこの部屋の空気を、少しだけ揺らしている。 コーヒーは、もうぬるくなっていた。 窓の外には、夜の気配が降りてきていて、 街灯の光が、まるで溶けかけたバターみたいに滲んでいた。 – あなたと最後に話したのは、 こんな夜だったかもしれない。 「じゃあ、またね」 その一言の重さに、 お互い気づかな […]
── 音無 Fade けだるいテンポでJAZZ HIPHOPが流れていた。 重たく沈んだビートが、 誰もいないこの部屋の空気を、少しだけ揺らしている。 コーヒーは、もうぬるくなっていた。 窓の外には、夜の気配が降りてきていて、 街灯の光が、まるで溶けかけたバターみたいに滲んでいた。 – あなたと最後に話したのは、 こんな夜だったかもしれない。 「じゃあ、またね」 その一言の重さに、 お互い気づかな […]
今日は、一緒だから コーヒーはテイクアウトにした。 ひとりじゃない日は、 それだけで 静けさの質が少し変わる。 ベンチに座る。 膝の上のぬくもり。 風の通り道。 その小さな身体が そっと鼻を動かして 季節の匂いを確かめている。 何も話さなくても、 呼ばなくても、 ときどきこちらを見上げてくる。 その瞳に、 曇りはない。 ただ、まっすぐに そこにいるだけで 不思議と、息が整っていく。 陽に照らされな […]
── 音無 Fade ブラックに近い、 少しだけミルクを入れたコーヒーを淹れた。 苦いままではきつすぎるし、 甘すぎても、なんだか他人行儀な気がしたから。 ちょうどその「曖昧さ」が、 今日の私にはちょうどよかった。 – あなたが最後に残した言葉を、 私は今も正確に覚えている。 でもその言葉を思い出すたび、 少しずつ意味がずれていく。 声のトーンだったのか、 目線の揺れだったのか。 言葉以外の何かの […]
── 音無 Fade 燃焼時にどうしても煙が出てしまう。 それは仕方のないことなのに、 いつも私は、その煙が目に沁みる理由を探していた。 使いかけのマッチの匂い。 夜のコンビニで買ったライター。 誰かの口癖みたいに、 その行為だけが、時間を止めてくれた気がしていた。 – あの部屋には灰皿があった。 丸くて重たい陶器製で、 底にはいつも吸い殻と、私の言葉にならなかった感情が溜まっていた。 「煙たいね […]
── 音無 Fade 強いて何か挙げるとすれば、 先日買ってきたチーズケーキがとても美味しかったことくらいだろうか。 冷蔵庫の奥にしまっておいたのに、 それを取り出すと、まるで昨日のことのように、 柔らかな甘さがそのまま残っていた。 ふと、あなたの顔を思い出した。 どこでどうしているのかなんて、 最近はもう、積極的には考えないようにしているけれど、 こうして、甘さの温度でふいに浮かんでくることがあ […]