声のいない場所

— 音無Fade —

声色を変えて
言えなかったことを
なんとか伝えようとした。

残声だけが
部屋に残っていた。
姿も温度もないままに。

無声のほうが、
ときに真実を近くに置いていた。

音声では届かない感情を
目線で渡そうとした。

内声ばかりが、
夜になると騒がしくなる。

呼声が返ってくると思って、
何度もドアをノックした。

声色は、時間とともに
少しずつ、知らない色になっていた。

残声は、
記憶の中でだけまだ、はっきりと聞こえていた。

無声に沈んだ時間が
いちばん素直だった気がする。

音声の記録を再生しても
あのときの温度までは戻ってこなかった。

内声の迷いが、
返事を遅らせた。

呼声は届かず、
風だけがすり抜けた。

最新情報をチェックしよう!