— 音無Fade —
声色を変えて
言えなかったことを
なんとか伝えようとした。
残声だけが
部屋に残っていた。
姿も温度もないままに。
無声のほうが、
ときに真実を近くに置いていた。
音声では届かない感情を
目線で渡そうとした。
内声ばかりが、
夜になると騒がしくなる。
呼声が返ってくると思って、
何度もドアをノックした。
*
声色は、時間とともに
少しずつ、知らない色になっていた。
残声は、
記憶の中でだけまだ、はっきりと聞こえていた。
無声に沈んだ時間が
いちばん素直だった気がする。
音声の記録を再生しても
あのときの温度までは戻ってこなかった。
内声の迷いが、
返事を遅らせた。
呼声は届かず、
風だけがすり抜けた。