──音無 Fade
冬が、好きだ。
空気が澄んでいて、
何もかもが静かに見える。
吐いた息も、
落ちる光も、
自分の歩く音さえ、
どこかやさしくなる気がする。
–
月がやけに眩しい夜、
イヤホンをつけて、ただ歩く。
寒さで頬が少しだけ赤くなるのも、
どこか嫌いじゃない。
–
昼が短い分、
夕方の影が長く伸びる。
誰かの家の窓から、
灯りがひとつずつ点いていく。
それを眺めているだけで、
今日という日が許されたような気がしてくる。
–
お気に入りのアウターを羽織って、
ホットコーヒーを片手に、
街をゆっくり歩く。
特に予定もないけれど、
それでも満ちていく何かがある。
満ちていくのに、溢れない。
冬は、そういう季節だ。
–
冷たいはずの空気が、
なぜかあたたかい。
誰にも会わずに帰ってもいい日。
黙っていても、責められない日。
–
だから、私はまだ、
春が来ないでくれたらいいのにと思っている。
この静けさが終わってしまうことに、
どうしても、うまく馴染めないから
。