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2022年4月

思い出さないように覚えている

──音無 Fade 思い出さないように覚えている。 いつからだろう、春が嫌いになったのは。 日に日に暖かくなっていく日々が、 どこか無防備で、耐え難くなってしまった。 どうせ、このあと酷暑がやってくる。 だったら最初から、寒いままでいてくれたほうがいい。 – 春は、予兆の季節だ。 変化の足音だけが遠くから聞こえてきて、 そのくせ何もまだ起きていない。 だから一番、心がざわつく。 別れも、はじまりも […]

決まっている散り際に

──音無 Fade 桜花の頃、 咲くよりも、散ることのほうに どうしても心が引かれてしまう私は、 きっとずっと、春に向かない人間なのだと思う。 あんなに綺麗に咲くくせに、 咲いた瞬間から終わる運命なんて、 優しいふりをした残酷だと思った。 でも、もし選べるなら、 私もきっと、そう咲いてみたかった。 そんなことを思いながら、 今年も私は、桜のラテを頼んでしまう。 — 春は、やさしい顔をしているのに、 […]

冬が好きな理由

──音無 Fade 冬が、好きだ。 空気が澄んでいて、 何もかもが静かに見える。 吐いた息も、 落ちる光も、 自分の歩く音さえ、 どこかやさしくなる気がする。 – 月がやけに眩しい夜、 イヤホンをつけて、ただ歩く。 寒さで頬が少しだけ赤くなるのも、 どこか嫌いじゃない。 – 昼が短い分、 夕方の影が長く伸びる。 誰かの家の窓から、 灯りがひとつずつ点いていく。 それを眺めているだけで、 今日という […]