音無fade–
冷たい風が吹いて、
ああ、秋が夜からやってきたと気づく。
昼間はまだ夏のふりをしているくせに、
夜だけは正直だ。
空気が澄んで、音の輪郭が際立つ。
虫の声さえ、誰かの足音みたいに聞こえる夜だった。
駅までの帰り道、
コンビニの袋がかさつく音が、やけに大きい。
きみが隣にいたころは、
あんな音なんて聞こえなかったのに。
秋は好きだ。
静かで、落ち着いていて、
ひとりになってもちゃんと息ができる季節だから。
でも、だからこそ思い出す。
どうしようもなく、
夏の終わりに言えなかった「ごめん」とか、
冬を前にして置き忘れた「ありがとう」とか。
きみの声が消えた日から、
何度も空を見上げてる。
だけどあの日と同じ月は、もうどこにもいない。
虫の声、夜の匂い、澄んだ空気。
すべてが同時にここにあるのに、
どこかひとつ、欠けている気がした。
もう何も起きない夜なのに、
なぜか胸の奥が少しだけ痛い。
──秋から冬へ。
心は静かなのに、
静かすぎて、泣きそうになる。