雨を見ていた

音無Fade

昼なのに、
まるで夜のように静かだった。

雨は遠慮なく降っているのに、
この部屋には、
どこかやさしい匂いだけが届いてくる。

外に出れば、きっと煩わしい。
靴も濡れるし、
傘は風に遊ばれるし、
誰かのため息みたいな音が、背中を打つ。

でも、窓のこちら側にいる限り、
雨はただ、やわらかく。

景色をぼかし、
音をほどき、
時間の輪郭をあいまいにしてくれる。

少しの後悔と、
少しの希望を持つには、
ちょうどいい午後だった。

何もしていないのに、
何かを見送ったような気持ちになる。

それだけで、
今日という日は、
少しだけ、意味を持った気がした。

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