時のまわりで

— 音無Fade —

時雨にまぎれて、
ふと、名前を呼びたくなった。

隙時にふれた指先が、
まだ温度を忘れていない。

追時のように、
気持ちだけが少し遅れて届いた。

過時になってから、
どうしても言葉が間に合わなかったことに気づく。

今時の空気のなかで、
あの頃の私たちが、まだどこかで呼吸している。

静時――
音が消えたあとにだけ、
ほんとうの意味が残る。

時雨はもう止んでいた。
けれど、心はまだ濡れていた。

隙時にこぼれた言葉たちは、
拾えないまま、静かに積もっていく。

追時の感情は、
相手がいなくなってから届く。

過時の記憶ばかりが
やけに鮮明で、
今を曇らせる。

今時の言葉はうまく響かない。
伝えたいことほど、
かたちが曖昧になる。

そしてまた、静時。
気配だけが残って、
もう誰もいない部屋が、まだ私を見ていた。

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