— 音無Fade —
時雨にまぎれて、
ふと、名前を呼びたくなった。
隙時にふれた指先が、
まだ温度を忘れていない。
追時のように、
気持ちだけが少し遅れて届いた。
過時になってから、
どうしても言葉が間に合わなかったことに気づく。
今時の空気のなかで、
あの頃の私たちが、まだどこかで呼吸している。
静時――
音が消えたあとにだけ、
ほんとうの意味が残る。
*
時雨はもう止んでいた。
けれど、心はまだ濡れていた。
隙時にこぼれた言葉たちは、
拾えないまま、静かに積もっていく。
追時の感情は、
相手がいなくなってから届く。
過時の記憶ばかりが
やけに鮮明で、
今を曇らせる。
今時の言葉はうまく響かない。
伝えたいことほど、
かたちが曖昧になる。
そしてまた、静時。
気配だけが残って、
もう誰もいない部屋が、まだ私を見ていた。