— 音無Fade —
余白があるから、
言葉はまだ、置けると思った。
余韻が残るから、
会話の続きを感じてしまう。
余剰だったものを、
あのとき切り捨てたつもりだったのに、
いちばん残っているのは、
その余りものだった。
余計だったかもしれない。
でも、あのときの私には、あれが精一杯だった。
余波のように、
思い出のかけらが、いまも胸をかすめてくる
残余。
置いていったのではなく、
置かれてしまった感情。
*
余白がまた、今日を少しだけ曖昧にする。
余韻が、夜の静けさに染み込んでいく。
余剰だと思っていた言葉が、
いつの間にか、私をつなぎとめている。
余計だと笑われた涙が、
唯一、本当だったのかもしれない。
余波は、もう来ないと思っていたのに、
今日も小さく揺れている。
そして残る、残余。
私という輪郭のなかに、
まだ名前のない想いが息をしている。