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2025年4月

記憶に溶けた毒

──音無 Fade 懐かしさは、罪に似ている。 あるいは罪か。 触れた瞬間に、もう戻れなくなる。 懐かしさは、記憶に溶けた毒。 甘くて、やさしくて、だけど決して無害ではない。 – 久しぶりに降りた、終点間近の小さな駅。 錆びた駅名標が変わらずにそこにあったことに、 少しだけ安堵してしまう自分がいた。 足元には濡れた落ち葉、 空気は冷えていて、懐かしさと後悔が入り混じる匂いがした。 通りの向こうに、 […]

音を失くして、守った言葉

──音無 Fade 音を失くして、守った言葉がある。 言ってしまえば壊れてしまいそうで、 だから私は、黙ったままうつむいた。 – 喫茶店「シルバー・ムーン」は、 都会の路地裏にひっそりと佇んでいた。 誰にも見つからないことを望むように、 少し古びたネオンを灯して。 タバコの煙とコーヒーの香りが混ざったあの店は、 かつて私が、何も語らなかった時間のなかにある。 あの人と座った隅の席。 氷の溶ける音と […]

「不平等という名の平等」

──音無 Fade そうだな、コーヒーを片手に考えてみると、 この世界はやっぱり、不平等だと思う。 生まれた場所も、言葉も、 背負ってきたものも、守られ方も。 誰かにとっての一年が、 誰かにとっては、一瞬にすらならないことがある。 時間でさえ、平等には流れていない気がする。 ある午後はやけに長く、 別の日は気づけば夜になっている。 けれど、そんなふうに思いながら、 ゆっくりと冷めていくコーヒーを見 […]

熱と音のない夏

──音無 Fade 夏が近づくと、 胸の奥に、ふと切なさが満ちてくる。 どこかで落としてしまった何かを、 無意識に探しているような感覚。 かつて、夏は息苦しかった。 重たい湿度に満ちた空気、まとわりつく汗。 それでも—— 青く広がる空、眩しい光、 制服の袖をまくった学生たち、 夕日のオレンジに染まる街並み、 そして、縁日から漂う甘い匂い。 そんなすべてが、確かに私を魅了していた。 あの頃、 夏は特 […]