甘さと哀しさの、ちょうどあいだ

──音無 Fade

午後のカフェ。
光が斜めに差し込み、
テーブルの影が少しずつ伸びていく。

一人で座る人、
そっと言葉を交わすふたり、
ページをめくる音、
スプーンの触れる音。

まるで、
違う時間を生きる人々が
ひとつの空間で、
静かに寄り添っているようだった。

失ったもの。
探しているもの。
言葉にしないまま、
誰かがそこに座っている。

でもきっと、
誰もがこの空気に
少しだけ心をほどかれていた。

カフェの扉を開けた瞬間に、
その人のなかの「何か」が
ゆっくりと、ほどけていく。

だからこの場所には、
少し甘くて、少し哀しい
余韻のようなものが残っている。

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