──音無 Fade
結末は、もっと劇的だと思っていた。
怒りとか、涙とか、抱きしめ合うとか。
でも、違った。
ただ、静かに目を見て、
何も言わず、歩き出した。
それだけだった。
–
交差点を渡る寸前、
私は振り返らなかった。
自分を守るための沈黙だった。
たぶん、あのときの私は。
–
春が来て、夏が過ぎて、
秋が来て、冬が近づいている。
季節は巡っても、
あの場面だけは、
どこにも行かずに残っていた。
–
結末は、あまりにも静かだった。
「いつかまた、どこかですれ違えたら」
そんな願いにすがるには、
私はもう、若くなかった。
–
だから私は、静かに通りすぎる。
気づかれないように。
それが、きっと私の揺れる故意だった。
心だけ、少し遅れて。