──音無 Fade
学生時代、何をするにも一緒だった親友がいた。
当時の俺たちはタバコを吸っていた。
メンソールなんかカッコ悪い。
そんなくだらないこだわりが、
二人の間ではなぜか“正解”みたいになっていた。
そして決まりごとのように、
いつも同じ缶コーヒーを飲んでいた。
小さめの甘い缶コーヒー。
夏はアイスで、冬はホット。
あれが妙にうまくて、毎回それを選んでた。
「甘さ控えめ」の文字を、あの頃は素直に信じていた。
あいつが家に来るときは、必ずそれを買ってきてくれた。
煙にまみれた部屋で、朝までゲームをしたり、
あてもなく車で走ったり、
岸壁で釣りをしているときも、
いつもその缶コーヒーは当たり前のようにそこにあった。
麻雀の時には、飲み終わった缶が灰皿代わり。
今思えば、全部が雑で、全部が自由だった。
社会人になってからは、
いつの間にか二人ともブラックコーヒーしか飲まなくなっていた。
タバコも、もう全く吸いたいとも思わない。
でも、あの甘い缶コーヒーだけは、
またあいつと飲みたいと思う。