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2022年7月

嫌いな夏とアイスコーヒー

──音無 Fade 暑い夏の日差しと、 冷房の効きすぎた薄暗い店内。 その落差が、妙に心地よかった。 もともと暑がりな自分は、夏が苦手だ。 だけどその店の空気だけは、なぜか好きだった。 カラン、コロン。 重たいドアを押して入ると、 タバコの煙とコーヒーの香りが、 日常と非日常のちょうど真ん中にあった。 席について、 あの店のマッチでタバコに火をつける。 「マッチでつけると旨く感じるよな」 仲間の誰 […]

予備校生の憂鬱

──音無 Fade 強い日差しのわりに、風が冷たかった。 本来は、いちばん好きな季節だ。 お気に入りのアウターの出番は、もうすぐかもしれない。 空気が澄んできているのが、肌でわかる。 そういえば、最近は日が暮れるのも早くなった。 そんな空気感が、たまらなく好きだ。 – 人には、ふたつのタイプがあるらしい。 太陽の光で落ち着く人と、月の光で落ち着く人。 私は、間違いなく後者だと思っている。 – いつ […]

あと一杯ぶんの距離

──音無 Fade 「普段ならチェーンでいいけれど、仕事のお話する時はちゃんとした喫茶店に入る事にしているの」 そう言って、彼女はブラックのコーヒーに口をつけた。 苦味のあとに一瞬だけ眉を寄せて、すぐ何事もなかったような顔に戻る。 私はその仕草に、ひどく見惚れていた。 – 年上の女性というより、“大人”という印象だった。 職業も肩書きも、どこか遠くのものに思えたのに、 彼女はなぜか、 この喫茶店と […]