[ブログ小説]  傷ついた心にカフェラテを

私が一人でカフェに行くようになったのは、ある出来事がきっかけだった。
学生の時友達とお茶するためにカフェに行くことはあったが、一人で行くことはほとんどなかった。
コーヒーならコンビニでも買えるし、本を読むのは家でもできる。
わざわざカフェでコーヒーを飲む必要はない。
そう思っていた。
その考えが変わったのは、新卒入社した会社を早期離職した後だった。

私は新卒で入社した会社を半年で逃げるように辞めた。
今の時代稀に見るブラック企業を引き当て、心身ともに疲弊したのが原因だった。
退職後はアルバイトをしながら転職活動をした。
大学の同級生が社会人として成長していく姿を見ながら焦りだけが募る毎日。
自信を無くし、気分が落ち込む日も多かった。

ある日ふと、「行きたいカフェリスト」をスマホのメモに保存してあったことを思い出した。
見てみると家から歩いて行けるカフェがある。
思い立ったが吉日、一人で行ってみよう。
夕方に家を出て、散歩がてら徒歩で向かうことにした。
空は青く晴れているが、秋の風が吹いていて肌寒い。
手が冷たく、ポケットに手を入れながら歩いた。
途中に本屋があったので、寄り道をして本を買った。

地図アプリを見ながら目的地にたどり着き、入り口を探した。
するとビルのそばに小さな看板を見つけた。
カフェは3階にあるらしい。
エレベーターが無いため、3階までビルの階段を上る。
階段を上りきって3階のドアを開けると店内は薄暗い。
「子供の頃憧れた秘密基地みたいだ」と思った。
ワクワクしながら店員さんの後につき、店内の階段を上る。

階段を上りきると、屋根裏部屋のような空間が広がっていた。
窓際のソファー席に座り、アイスカフェラテを頼んだ。
買った本を読みながら来るのを待つ。

「お待たせいたしました。こちらアイスカフェラテでございます。」
テーブルに置かれたグラスをもち、ストローで一口。
乾いた体に冷たい甘さが染みていく。
店内には心地よい音楽が流れて、体の力が抜けていくのを感じる。
ソファーに深く沈みながら本の世界に入り込んでいった。

夢中で本を読み進め、気づけば本を読み終わりグラスも空になった。
スマホの時計を確認すると、すでに一時間が過ぎていた。
窓越しに見える空は藍色に変わっている。

本をバッグに仕舞って席を立つ。
階段を下りて、レジのトレーに500円玉と100円玉を1枚ずつ置いた。
「ごちそうさまでした!」
秘密基地を作った子供のようにドキドキしながらドアを開けて外に出た。

気持ちは満たされ、軽い足取りで家への道を歩く。
「一人でカフェって、いいものだな」
カフェのコーヒーを高いと感じる気持ちは少しもなくなっていた。
コーヒーだけにお金を払うのではない。
時間も現実も忘れさせてくれる魔法のような空間にお金を払っているのだ。

長い人生、疲れるときもある。何も考えたくないときもある。
そんなときはカフェに行こう。
甘いカフェラテを飲んで本の世界に現実逃避。
傷ついた心にカフェラテを。

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