──音無 Fade
空気が止まったようなこの午後に、
誰のせいでもない“終わり”だけが、
部屋の中に残っていた。
カーテンは揺れていないのに、
なぜか風が吹いたような気がした。
あなたがいなくなったことと、
それを“仕方がない”と思えてしまう自分が、
少しずつ部屋の隅に溜まっていく。
–
たぶん、何かを言うべきだった。
だけど、
あなたが最後に何を言ったのか、もう覚えていない。
いや、覚えようとしなかったのかもしれない。
その言葉の輪郭をなぞることが、
終わりを認める儀式みたいで、怖かった。
–
氷が溶けて、薄くなったアイスコーヒーのグラスに、
一筋の光だけが静かに差し込んでいた。
時計は動いているはずなのに、
時間だけが、
この部屋を避けて通っているような気がする。
–
“これでよかった”って、
いつかは思えるのだろうか。
それとも、
“よかったふり”をしながら、
同じ部屋で、同じ午後を、
何度も繰り返していくんだろうか。
–
あなたが座っていたソファに、
今、誰もいないことだけが現実で、
それ以外の全部が、
夢みたいに薄れていく。
**
気づかれないように泣く方法は、
少しずつ上手になっていくのに、
「さよなら」の正しい言い方は、
今もまだわからないままだ。