[ブログ小説] 赤い缶コーヒーとバンドマン 

とあるバンドマンの話。

「いらっしゃいませ。」
平日8時30分頃、君はいつもお店に来る・・・
毎回買っていくものは、決まって同じ赤い缶コーヒー。

僕は、25歳。バンドマンをしている夢追い人。
夜にはスタジオ練習やライブがあるから、昼間にコンビニでバイトしている。
早くバンドが売れて、バイト生活から抜け出したいが、今のところまだまだバイト生活が続きそうだ。
「バンドマン」という肩書でチャラそうに見られるが、実際は恥ずかしいくらいシャイで一途な方だと自分では思っている。

コンビニで働き始めて2年くらいたった春、僕のレジに初めて君が来た。
黒髪ロングヘアーでスーツを着てた。
僕と同い年くらいか年上だろう。
朝8時頃だというのに、凄く疲れた顔をしていたんだ。
そして、赤い缶コーヒーを買っていった。
次の日も君はレジに来た。
また疲れた顔をしている。
他のお客さんには今まで何も思ったことはなかったのに、僕はなぜか君に色気を感じてしまった。
平日の朝に、君がレジに来るたびに「いらっしゃいませ。」とだけ言って、僕は心の中で「お疲れ様です」と言っていた。
話しかける勇気が僕にはなかったから。

君が毎朝レジに並んでいるのを見かけると、ドキドキした。
次にレジに来ると思うだけで、緊張してしまう。
ステージでは、こんなに緊張しないのにな・・・
君が買っていく赤い缶コーヒーを僕は飲んだことがない。
どんな味がするのか気になったが、なぜか飲めなかった。

君のことを何も知らないのに、恋愛の曲や映画を見ると君を思い出した。
「疲れた顔をしていること」と「赤い缶コーヒーを買っていくこと」しか知らないのに。
どんな人なんだろう・・・気になるけど、行動する勇気はないな。
このストーリーを僕は曲にすることにした。
いつもの喫茶店に集合し、バンドメンバーに聞かせたら、「コンビニ店員の恋か・・・面白いテーマだね」と言ってくれ、採用された。
バンドでのアレンジも終えて曲が完成した次の日、君はお店に来なかった。
その次の日も、来なかった。
平日なのに君は来なくなってしまった。

僕が作った曲の初披露のライブの日。
いつもの曲からライブが始まる。
そして、君の曲。
「もう二度と会えないかもしれない・・・」そんな淡い気持ちとスポットライトとスモーク。
ライブも無事に終わり、楽屋でお客さんの差し入れの飲み物を見つけた。
その中に、あの赤い缶コーヒーがあった。
楽屋には僕一人。
赤い缶コーヒーを開けた。
「お疲れ様です」

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