私がまだ大学一年生の頃の話である。
学科内で仲良くしていたD君と喫茶店巡りをする事になった。
地方の田舎出身である私たちは、都内のどこに行っても観光地の様に感じ楽しかった。
D君も九州の田舎出身であった為か、きっと同じ様に感じていて気が合ったのだろう。
行く場所はすぐに決まった。
東京の喫茶店で有名な場所といえば神保町だ。
おのぼりさんな私達は第一にメジャーな所に行きたかったのだ。
そんなこんなで神保町に行き、いざお目当てのお店へ……その店は少し入り組んだ路地裏にあった。
外観から昭和の雰囲気を漂わせており、内装も如何にもな喫茶店だった。
これぞ昭和レトロというべきか、時が止まったような素敵な空間だった。
確かラドリオといったお店だと記憶している。
地元では味わえないオシャレな空間に私達は満足した。
そして二人して名物であるウィンナーコーヒーを頼んだ。
一口飲んでみて、流石名店と思った。
砂糖を入れなくてもコーヒー苦さとクリームの甘さが絶妙にマッチしていたのだ。
あの感動は今も忘れられない。
雰囲気と味との2つで楽しませてくれた。
D君も満足そうに笑っていた。
それからというもの学校の休みの日の昼下がり、大好きな小説を片手に神保町に通っていた。
表通りにはドトールやプロントといった学生にとっては行きやすいお店が数多くある一方で、裏通りを歩くと昔ながらの喫茶店や個性のあるお店が数多くあった。
友人や仲間と飲んだコーヒーも、一人で読書しながら飲んだコーヒーも、今となってはいい思い出となっている。
街全体が豆を挽く音とともにコーヒーの香りが漂ってくるように思えた。
中二階があってちょっと隠れ家のようなお店。
囲炉裏を囲んで淹れたてのコーヒーと自家製のケーキをいただけるお店。
ナポリタンやピラフといった軽食がとっても美味しかったお店。
残念ながらなくなってしまったお店もあるが、今でも営業を続けているお店には、大学を卒業してからも年に数回は足を運んでいた。
ここのところ少し足が遠のいているが、春になったらお花見のついでに行ってみようと思う。
今でもウィンナーコーヒーを頼むと、何もかもが新鮮で楽しかった当時の記憶を思い出す。